女「ナイショだけどさ。たまおり姫の父親は、もと平家のさむらいってウワサがあるのよ」 おじいさん「とどろのたきのたきのヌシさまは、みんながいうような悪い妖怪ではねえだ」 男「たまおり姫はかわいくて、オレ、好きなんだよなあ」 少年「きゅうしゅうには、しこくからは行けないよ」 少年「おいらと、かくれんぼしないかい? おいらをつかまえたら、すっごいほうびをやるよ!」 阿古耶「いきなりな子だねえ」 頼遠「どうする、北斗丸?」 かくれんぼをしますか? 北斗丸「そんなこと、してるヒマはないよ」 法輪「ま、そういうことじゃ。すまんな」 少年「チェッ、つまんないの。すっご−−−いほうびなのになあ」 北斗丸「さがすのは、自信があるんだ。よ−し、すぐにつかまえてやるぞ」 少年「そうこなくっちゃ!じゃあ、こっちにおいでよ」 少年「いいかい。おいらが、ここでかくれる。 あんたは、おいらをさがして、つかまえること。わかったかい?」 北斗丸「よし、がんばるぞ」 少年「あきらめたら、仲間にはなしかけな。じゃあ、行くよ!はじめ!」 男「ああ、もうおしまいだ………ううっ」 女「姫、わたくしたちの姫………ああ、なんてことでしょう」 北斗丸「なんだろう?なにか、かなしんでいるみたいだ」 女「あっ、たまおり姫!」 男「おお、ぶじだったのだね」 たまおり姫「おとうさま、おかあさま………」 女「どうしたの、元気がないようだけど」 男「な−に、やっと帰って来れてホッとしてるんだろう。さあ、こっちへおいで」 男「これは、せめてものおれいです。ありがとうございました」 500両、もらった! 男「このご恩は、一生わすれません。気をつけて、旅をつづけてください」 北斗丸「ええ、みなさんもお元気で」 男「ああ、姫は………たまおり姫は?」 北斗丸「それが………たまおり姫は、たきのヌシが好きなんだそうです。 だから、家には帰らないといっていました」 男「なんですって、そんなバカな!」 阿古耶「本当よ。たきのヌシも、たまおり姫が好きなんだって。 二人を引きはなすなんて、かわいそうだよ」 男「そ、そんなことはみとめん!こうなったら、わしが行って……」 北斗丸「待ってください!そんなことをしたら、たまおり姫がかなしみますよ」 法輪「本人どうしがしあわせなら、親の出るまくは、ないんじゃないかのう」 女「しあわせ……?」 頼遠「そうとも。オレたちは、このかんざしをあずかってそう伝えるように頼まれたんだ」 女「あっ、それは姫のかんざし……… ……そう、姫は……わたくしたちのむすめは、しあわせなのですね……」 北斗丸「はい」 女「わかりました。あなた、たまおり姫はおよめに行ったと思いましょう」 男「なんだって、おまえまで!?」 女「好きな人のところにいるのだから、姫はしあわせに決まっています。 ときどき会いに行けばいいではありませんか」 男「し、しかし………」 女「みなさん、ありがとうございました。そのかんざしは、おれいにさしあげます」 阿古耶「いいんですか?わあ、うれしい」 北斗丸「それじゃ、オレたちはこれで」 男「……さっさと行ってくれ」 女「あなたったら。気をつけていってくださいね」 北斗丸「はい」 旅のそうりょ「わたしは、鎌倉のやどやにとまったとき、みほとけを見たのだ。 あれは、そうりょでなくてはできないけいけんだろうな……うっとり」 男「ああ、ああ……なんてひどい………」 女「この世に、神やほとけはいないのですね………」 北斗丸「あの……どうかしたんですか?」 男「ああ、旅のお方ですか。どうかしたなんてもんじゃ、ありませんよ。 む、むすめが………わしらのむすめが………ううっ」 頼遠「よければ、話を聞かせてくれないか?力になれるかもしれない」 女「そ、そうですわ!あなた、この方たちにおねがいしてみましょうよ!」 男「しかし、ヘタをすれば、この方たちも、あぶないのだぞ」 女「そ、それは……」 阿古耶「ゴチャゴチャいわないでよ。とにかく話してみりゃあ、いいでしょ」 法輪「そうじゃ。できるかぎり、力をかすぞい」 北斗丸「話してみて下さい」 男「そうですか、それでは……… 実は、たまおり姫というわしらのむすめが、妖怪にさらわれてしまったんです」 女「姫は、とてもうつくしいむすめです。 だから、妖怪なぞに目をつけられてしまったのでしょう………うう」 男「わしらは十数年前、ここに住みついたのです。 それからずっと、平和にくらしてきました。 それなのに、ついこのあいだ、村の北の、とどろのたきの近くを通りかかったむすめが、 いきなり水の中に、引きずりこまれてしまったのです。 あれは、たきに住むヌシのしわざです。 助けに行こうにも、とどろのたきのヌシは強くて、 とてもわしらでは、あいてになりません」 女「かわいそうな姫。どうか、たまおり姫を助けてください」 頼遠「どうする、北斗丸?」 たまおり姫を、助けに行きますか? 北斗丸「かわいそうだと思うけど、 オレたちもっと他にやることがあるから……」 阿古耶「なにさ、つめたいんだね」 法輪「まあ、しょうがなかろう。北斗丸が、そういうならのう」 北斗丸「決まっているじゃないか。 かわいそうに、きっとこわい思いをしているぞ。 早く、助けに行ってあげなくちゃ」 女「えっ、じゃあ行ってくれるのですか?」 北斗丸「もちろんです。みんなも、いいよな?」 法輪「まったく、おせっかいじゃのう…… まあ、それが北斗丸のいいところなんじゃが」 阿古耶「そうだよ。それでこそ、北斗丸なんじゃない」 火鷹「………しょうがねえな、ったく」 男「おねがいです、たまおり姫を助けてください」 女「姫は、たったひとりのかわいいむすめなのです」 頼遠「どうする、北斗丸?」 たまおり姫を、助けに行きますか? 頼遠「こまっている人を、ほっとくわけにはいかないしな」 北斗丸「よ−し、決まった。じゃあ、出かけます」 女「あ、ありがとうございます、ありがとうございます。 とどろのたきは、この村を出て、北に行ったところにあります」 男「それでは、この刀を持っていってください。 これは『せきのまごろく』といってわが家に伝わる宝です。きっと、役にたつはずです」 『せきのまごろく』を手に入れた! 男「それでは、気をつけてください」 男「早く、姫を連れてきてください。つまは心配のあまり、夜もねむっていないんです」 男「ああ……姫……」 男「いやあ、姫がもどってきてよかった。もう一人では、出かけさせません」 女「たまおり姫が帰ってきたら、どんなおれいでも、いたします」 女「二度と、こんなことがないようにしなければ」 女「みなさん、お元気ですか?おっとは、まだかなしがっています」 たまおり姫「ああ、ヌシさまに会いたい……」 子ども「なるとのはまのへび妖怪 人にはたおせぬへび妖怪 この身が鬼神となれるなら 生かしておくまいへび妖怪……… このへんに伝わる手まりうただよ」 子ども「手まりうたが本当なら、妖怪をやっつけたのは、鬼なのかな………まさかね」 女「さかながとれなくなったから、うちのダンナは、みやこにはたらきに行ったわ」 女「さかながとれるようになったから、うちのダンナ、もうじきみやこから帰ってくるのよ」 男「前は、ここもゆたかな村だったんだがなあ……… 南西のはまべに、妖怪が出るようになってから、魚が取れなくなっちまったんだ」 男「妖怪がいなくなったんだってよ! いやあ、ありがたいこれでまた、しょうばいにせいをだせる」 男「この村の南西のはまべには、おそろしい妖怪が出るよ。あんたらも、気をつけるんだな」 男「妖怪がいなくなったそうだどこのだれがたおしたかしらんがありがたいこった」 おじいさん「むかしは海をわたって、ぶんごや肥後に行けたもんじゃ…… えっ、どうしてかって?岩がたくさんあって、上をあるいて行けたからじゃよ。 でも今は、なくなっちまったようじゃな」 おじいさん「妖怪がいなくなったから、また、きゅうしゅうにあそびにいけるのう」 女「この村の南西が、なるとのはまよ」 |