男「イテテ………ひ、ひどいなあ………グスン」 北斗丸「だいじょうぶですか?」 男「ああ………どなたか知りませんが、ありがとう」 法輪「なんで、こんな目にあうんじゃ?」 男「こっちが聞きたいくらいです。 わたしはただ、近ごろ町に妖怪が出てぶっそうだって、いっただけですよ。 そしたら、あのさむらいにつかまってボッコボコに………ううっ」 女「夜になると、そとでみょうな音がするの。 でも、のぞいてみてもだれもいないのよ。あれは、妖怪ね」 女「夜になると、みょうな音がするって?あたし、夜はねてるから、わからないわ」 女「このごろ、夜にみょうな音がしなくなったわ」 女「夜中に、バケモノが藤原さまのおやしきに入ってくのを見たの。 でも、こんなこといっても、だれも信じてくれないわ」 女「バケモノですって?なんのこと?」 女「藤原さまが、急なやまいでなくなったそうよ」 おばあさん「夜に出あるいちゃなんねえ。 夜は、あやかしの力が強くなるでな。人間は、そとに出ない方がいいだよ」 おばあさん「お−や、いい男じゃのう…ぽっ」 おばあさん「平和は、ありがたいのう」 男「義経さまは、この町の近くのやかたでなくなったんだよ。 やさしくて気どらない、いい人だったんだけど……」 男「義経さまって、だ−れ?」 こども「義経さまは、鎌倉の頼朝さまにさからったんだって。 だから藤原さまが、義経さまをやっつけたんだって。 藤原さまのおやしきは、この町のまん中にあるよ」 こども「藤原さま、ばんざ−い!!」 頼遠「どうやら、藤原というヤツのやしきになにかありそうだな」 北斗丸「行ってみようか」 北斗丸「こんにちは。ここは、藤原さまのおやしきですか?」 さむらい「そうだが、おまえらはなにものだ?」 頼遠「オレは源頼遠。藤原どのは、おられるか?」 さむらい「みなもと?ひょ、ひょっとして頼朝さまのお使いか!? す、す、すぐお通しします!どうぞ、こちらへ」 藤原「ようこそ、お客人。頼朝さまは、お元気ですかな?」 頼遠「ええ、とても元気です。 ところで、今日は聞きたいことがあって来たのですが……」 藤原「ほう、なんですかな?」 頼遠「このあたりには、たくさんの妖怪が出るそうですね。 実は、頼朝さまの姫が、そいつらにさらわれてしまったのです。 おそらく、一番強い妖怪のところにいると思うのですが……… このあたりで、一番強い妖怪はどんなヤツですか?」藤 原「ははあ、なにか、かんちがいをしていますな。 このへんには、妖怪なんて出ませんよ」 北斗丸「そんなはず、ありません!町の人もみんな、いってましたよ」 藤原「町のヤツらが?はっはっは、ダメですよそんなウソを本気にしては」 法輪「ウソ?」 藤原「そうです。ためしに、もう一度聞いてごらんなさい。 きっと、本当のことをいいますよ」 北斗丸「そんな……」 頼遠「そうですか、わかりました。こちらのかんちがいだったようですね。 では、これでしつれいします」 藤原「また来てください。 ところで、一番強い妖怪といえば、やっぱりナマハゲだと思いますよ。 いえ、ここにはいませんがね。はっはっはっ……」 法輪「あの男、あやしいのう。なにかを、かくしとるようじゃ」 北斗丸「妖怪はいないなんて、あの人の方がよっぽどウソつきじゃないか。 妖怪を見たって人が、ちゃんといるのに………… ちょうどいい、あの人にもう一度、聞いてみよう」 北斗丸「あなたは、妖怪を見たんですよね」 男「ようかい……?なあに、それ。みたことも、きいたこともないなあ……たべもの?」 法輪「ええっ、なにをいってるんじゃ!?」 頼遠「たしかに、この男は妖怪のことを話していたぞ。それなのに……」 男「ようかい……?なあに、それ」 頼遠「しまった、藤原だ!藤原にきおくふうじの術をかけられたんだ」 法輪「きおくふうじの術!?わしらが会っていた、あのみじかい時間でか!? そんなこと、人間にできるわけがないぞ!」 北斗丸「しまった!藤原が、妖怪だったんだ!!」 さむらい「もうしわけありません。藤原さまはぐあいが悪くて、お会いできないそうです」 法輪「こうなったら、夜まで待ってしのびこむしかないかもしれんのう」 さむらい「藤原さまが、急なやまいでなくなったんだ。今、ここはあきやだよ」 男「むかしはよかったなあ。近ごろ、なんかみょうなんだよな。 妖怪は出るし、やさしかった藤原さまも、 まるで人が変わったように、つめたい人になったし……」 男「ようかいって、ようかんとにてるね。あまいのかなあ………ウフフ」 男「妖怪が、いなくなったんだよ。ふしぎな話だろ?」 法輪「ここが藤原氏のやしきじゃ。こいつが、あやしいんじゃがなあ」 火鷹「フン、じゃあしらべてみようぜ」 頼遠「どうするんだ?」 火鷹「知れたことよ。カギをこわして、しのびこむのさ」 北斗丸「そ、それじゃドロボウじゃないか!」 法輪「ホッ、おもしろそうじゃな。静かにしとれ、北斗丸」 北斗丸「だって……」 火鷹「さあ、行くぜ」 頼遠「ずいぶん、あらっぽいんだな。こういうやり方は、どうも気に入らない」 火鷹「フン、あまいぜ。そんなことを、いってるばあいじゃねえだろう」 法輪「そうじゃ。藤原の正体をあばくのが先じゃ」 北斗丸「わ、わかったよ」 法輪「おお、しまった。入り口が消えちまったぞい」 火鷹「ここから出る方法は、ヤツをとっつかまえて、聞くしかねえってことだ」 頼遠「じゃあ、ヤツを探しに行こう」 北斗丸「それにしても、これがやしきの中なのか?ひるまとは、ぜんぜんちがうぞ」 男「北のはしが古くなってあぶないから、今つくりなおしてるんだ」 男「北のはしなら、できたぜ」 つばき「わたしは、みんなの体力をすこし、かいふくさせられます。 つれていっていただけませんか?」 仲間にしますか? つばき「ざんねんです」 つばき「がんばります」 つばきが仲間になった! つばき「お仲間がおおいですわ。それではついていけません」 男「どうだい、この町。鎌倉や京にも負けない、すごいみやこだろう」 男「ず−っと北のはてにはさんばしが、あるんだぜ」 おばあさん「鎌倉から来なさったかい。鎌倉には、ワシよりいい女はいるかね?」 おじいさん「むかし話を聞きたいかね?」 おじいさん「そうかい」 おじいさん「十数年前のことじゃ。鎌倉の頼朝さまの使いが来てのう。 ちょうど、この町に来ていた弟の義経さまと、この町の藤原さまを倒したんじゃ。 なんでも義経さまが、頼朝さまにはむかって、藤原さまは、それを手伝っていたらしい。 義経さまは、そのときなくなったが、藤原さまはなんとかゆるしてもらい、 今の平泉があるというわけじゃ。おもしろかったかの?」 女「妖怪なんて、いないに決まってるじゃない。なんでかって? あたしが見たことないからよ」 女「旅の方ですか。ゆっくりたのしんでいってくださいね」 少年「北西にはつがる村があるよ!」 主人「いらっしゃいませ。おとまりは50両になります」 とまりますか? 主人「またのおこし、おまちしています!」 主人「お金がたりませんよ!」 主人「またのおこし、おまちしています!」 法輪「な、なんだ!?」 頼遠「妖怪が、こんな町の中にいるなんて、変だな」 北斗丸「そんなこと、いってるばあいじゃないよ! こいつら、オレたちをねらってるみたいだ」 頼遠「しょうがない。戦うぞ!」 法輪「それにしても、たくさんいるのう……」 なぞの声「待ちな!助だちするぜ!」 北斗丸「だれだっ!?」 火鷹「オレの名は、火鷹。どうやら、こまってるようじゃねえか。てつだうぜ」 頼遠「敵か味方かわからんヤツを、信用できるか」 法輪「そういうなよ、頼遠。手伝ってもらおう、助かるじゃないか」 頼遠「こいつが、まちがいなく味方ならな」 火鷹「フッ……信じないなら、それでもいいさ。 だが、あんたらの方がヤバそうに見えるぜ。決めるなら、早く決めることだ」 北斗丸「火鷹さんのいう通りだ。オレは信じます。助だちしてください」 法輪「わしもじゃ」 頼遠「みんな、お人好しすぎるぜ!……だが、他に方法はないな。たのむ!」 火鷹「それでいい。よ−し、待たせたな!行くぜ!」 北斗丸「ありがとうございます。助かりました」 法輪「これで信用できたろう、頼遠?」 頼遠「いいや、まだだ。なんだって、見ず知らずのオレたちを助ける気になったんだ?」 法輪「うたぐりぶかいヤツじゃなあ」 火鷹「いや、信じられないのもむりはねえ。 だがな、助けたのにはわけがあるんだ。 あんたら、さっきの妖怪どもにねらわれる心当たりは、あるのか?」 北斗丸「はい、あります。 オレたちは、頼朝さまの姫をさらった妖怪を、やっつけにきたんです」 火鷹「やっぱり、妖怪退治か。オレもそうだ。 いちばん強い妖怪を倒せば、このあたりにも平和がもどるはずだからな」 法輪「そりゃあいい。仲間になってもらえば、心強いぞ」 頼遠「本気か?」 北斗丸「本気だよ。知らん顔してもいいのに、 わざわざ、オレたちを助けてくれたんだ。この人は信用できるよ」 法輪「それに、うでもたつしのう」 火鷹「仲間にしてもらえるなら、ねがったりだ。信用してくれ」 北斗丸「いいだろう、頼遠?」 頼遠「まあな。おまえが、そうまでいうなら……」 法輪「ウム、よかったわい。よろしくな、火鷹」 火鷹「ああ、よろしく」 火鷹が、仲間になった! |