セリフ 31




ごすけ「あかちゃんは、ずっとねむりっぱなしですよ」
ごすけ「やあ、これは、阿古耶おじょうさま。お元気でしたか」
ちょうじゃ「こどものゆくえはまだ、わからないのですか?」
ちょうじゃ「いらっしゃい。今日は、とまっていくんでしょうね?」
北斗丸「いいえ、けっこうです」
ちょうじゃ「そうですか。とまりたいときはいつでも、いってくださいよ。
もちろん、お金なんていただきませんから」
北斗丸「ええ、おねがいします」
ちょうじゃ「いいですとも」
ちょうじゃ「また、いつでもどうぞ」
女「だんなさまも、おくさまも、すっかり元気をなくしてしまいました」
女「いらっしゃいませ」
おなみ「ああ、あかちゃん………わたしのあかちゃん………」
おなみ「ようこそ、いらっしゃい。ゆっくりしていってね」
あかんぼう「スヤスヤ………スヤスヤ………」
あかんぼう「バブバブ、ダアダア」


ちょうじゃ「あっ、どうです?こどものゆくえは、わかりましたか」
北斗丸「ええ、まあ」
ちょうじゃ「よかった!」
ちょうじゃ「やい、ぼりょう!出てこ−い!!」
ちょうじゃ「さあ、のろいをといてもらおうか!」
ぼりょう「あたしのこどもは、どこ?
元気なすがたを、見せてくれるはずでしょ………」
ちょうじゃ「えっ、それは………北斗丸さん、どこにいるんですか?」
阿古耶「あたしよ!」
ぼりょう「なんだって、おまえが………?」
阿古耶「そうよ。ほら、このお守りに見覚えはない?」
ぼりょう「そ、それは、あたしのお守り!
お、おまえ、本当にあたしのこどもなんだね………しあわせに、くらしているかい?」
阿古耶「そうだね………うん、しあわせだよ。仲間もいるしね」
ぼりょう「そうかい、よかった………じゃあ、やくそくは守るよ。
あかんぼうから、ぎゃく鬼を取ってあげる」
ちょうじゃ「あ、ありがとう!」
ぼりょう「ぎゃく鬼!もういいよ、出ておいで」
北斗丸「あれが、ぎゃく鬼か……」
ぼりょう「ぎゃく鬼!さあ、こっちへおいで」
ぎゃく鬼「………いやだね」
ぼりょう「なんだって!?」
ぎゃく鬼「あかんぼうの中は、いごごちがいいんだ。
オレは、ずっとここにいるぞ。このあかんぼうが、死ぬまでな」
おなみ「そ、そんな!」
ちょうじゃ「やくそくがちがうぞ!」
ぎゃく鬼「オレの知ったことじゃねえ。もんくがあるなら、力ずくで来な!」
頼遠「なんて、ひきょうなヤツだ!」
火鷹「フン………だが、その方がてっとり早くて、オレ好みだぜ」
北斗丸「よ−し。行くぞ、阿古耶!」
阿古耶「わかってる!」
ぎゃく鬼に、おそいかかった!



ぎゃく鬼「チ、チクショウ………まだ、死にたくないよう………」
あかんぼう「スヤスヤ………スヤスヤ………オ、オギャア!オギャア!」
おなみ「あかちゃんが、目を覚ましたわ!」
ちょうじゃ「本当だ!」
ぼりょう「すまなかったわね………まさか、こんなことになるなんて」
おなみ「もう、いいのよ。それより、これでねえさんも、じょうぶつできるのでしょう?」
ぼりょう「ええ、心のこりもないしね………
あたしのこどもも、こんなに元気にそだってくれたし………」
阿古耶「あ、あの………」
ぼりょう「あたしの、かわいい子………一度だけ、だきしめさせておくれ」
阿古耶「あ、はい………ど、どうぞ」
ぼりょう「ありがとう」
法輪「これ、阿古耶。おっかさんとよんでやらんかい」
阿古耶「……おっかさん………ごめんね。
あたし、自分に親がいるなんて、かんがえてもみなかったから……」
ぼりょう「いいのよ。あたしこそ、親らしいことをしてやれなくて、悪かったわね」
阿古耶「ううん、そんなことない!
あの………あたしのこと探してくれて、ありがとう」
ぼりょう「阿古耶………」
北斗丸「なんだ、あの光は!?」
法輪「ぼりょうが、じょうぶつしようとしとるんじゃ。見てみい、あのうつくしい光を」
阿古耶「お、おっかさん!」
ぼりょう「おまえのおかげだよ。ありがとう、元気でね………
あたしはいつだって、おまえのぶじをいのっているからね………………さよなら………」
阿古耶「………さよなら、おっかさん」
法輪「しあわせそうな、いい顔をしとったなあ」
阿古耶「あっ、お守りがなくなってる。
おっかさんたら、持っていっちゃったんだ………」
北斗丸「阿古耶………」

ちょうじゃ「阿古耶さん……と、いったね。
おたつさんのこどもなら、わたしたちのめいだ。
よかったら、うちの子にならんかね?」
阿古耶「ええっ!?」
ちょうじゃ「えんりょはいらんよ。
あかんぼうのねえさんに、なってくれればいいんだ」
おなみ「ぜひ、そうしてちょうだい。
きっと、おたつねえさんも、よろこぶわ」
阿古耶「あ、あたしが……このうちの子に?」
おなみ「うちの子に、なってくれるわね?」
阿古耶「………ごめんなさい。おことわりします」
ちょうじゃ「ど、どうしてだね?」
阿古耶「あたしには、こんな家のおじょうさんなんて、にあわないし………
それに、京には、あたしを待っててくれる弟たちがいるんです。だから、ごめんなさい」
ちょうじゃ「………そうか。でも、また遊びに来てくれるね?」
阿古耶「はい、もちろん」

阿古耶「行こうよ、北斗丸」
北斗丸「本当に、いいのかい?」
阿古耶「あったりまえよ。じゃあ、お元気で」
おなみ「あなたも、元気で旅をつづけてね」
ちょうじゃ「そうだ、阿古耶さん。せめて、これをもらっておくれ。
わが家の宝だけど、きっと旅に役だつはずだよ」
ゆめみのころもを、手に入れた!
阿古耶「ありがとう………おじさん、おばさん」
ちょうじゃ「それでは、元気でな。みなさん、また遊びに来てください」
阿古耶「はい」
頼遠「こうかいするなよ、阿古耶」
阿古耶「するもんか。これまでずっと、あたしのみうちはあの子たちだったんだ。
これからだって、そうさ」
法輪「でも、ちょっとおしい気もするのう」