阿古耶「やっと森をぬけたのはいいけど、つかれちゃった。 やすめるところないかなあ」 北斗丸「あ、あそこに村があるぞ。あそこで、やすませてもらおう」 北斗丸「こんなところに、村があるなんて……」 阿古耶「よかったじゃない。やすめるところがないか、聞いてみようよ」 頼遠「しかし………なんだか、へんな村だな」 火鷹「おくの方から、なにか聞こえるぜ」 法輪「本当じゃ。人の声ではないかのう」 声「北斗丸………北斗丸………」 頼遠「また、あの声だ」 声「よく、がんばりましたね……… ここまで来れば、出口まであと少しですよ……… さあ、行きなさい………ここで、お別れです…………」 北斗丸「待って……待ってください!」 阿古耶「北斗丸?」 北斗丸「オレ、ずっとかんがえてました。あなたは、だれなんだろうって。 おねがいです!すがたを見せてください」 声「………わかりました………」 北斗丸「あなたの声は、とてもなつかしい感じがしたんです……… あなたは、ひょっとして………」 静「ええ………わたしの名は、静。北斗丸、あなたの母です………」 北斗丸「や、やっぱり………おかあさん!」 阿古耶「あの声の人が、北斗丸のおかあさんだったなんて!」 法輪「だから、あれほどけんめいに、助けてくれていたんじゃなあ……」 北斗丸「どうして、はじめからおかあさんだって教えてくれなかったの?」 静「………名のる気はなかったの。わたしには、そんなしかくはないから………」 北斗丸「どうして!?」 静「義経さまが………あなたのおとうさんが、頼朝に殺されたのはわたしのせいでもあるからです」 北斗丸「ええっ?」 静「北斗丸、よく聞いて………わたしは人間ではありません。 義経さまは、わたしを妖怪と知りながら、わたしをあいしてくれたのです……… でも、そんなことを頼朝がゆるすはずがなかった………」 義経「静、よく聞いてくれ。オレは、これから旅に出る」 静「ええっ、どういうことなのですか?」 義経「兄上が、弁慶や、他のいい妖怪を切れといったのだ。 ことわったら、うらぎりものあつかいさ。 このままでは、いずれつかまってしまうだろう………」 静「義経さま………」 義経「かといって、オレには、いい妖怪を切るなんてできない。 とくに静、おまえのような妖怪を切るなんて、ぜったいにいやだ!……だから、オレはにげる」 静「わ、わたしもまいります」 義経「ダメだ。おまえのおなかには、今オレたちのこどもがいるんだぞ。 オレについて来るなんて、ムリだ!」 静「でも………」 義経「オレたちは、なるべく目立つようにして、兄上の目を引きつける。 だから、おまえが別の方ににげれば、つかまらないはずだ……わかったな。 おまえだけでもにげて、こどもを助けてくれ」 静「………はい」 義経「元気でな。こどもをたのむぞ」 静「義経さまぁ−−−!」 静「でも、わたしは、つかまってしまいました。 そして、あなたを生んだあと、びょうきになって死んでしまったのです……… 頼朝は、あかんぼうのあなたを、はまべにすててしまったと聞きました」 北斗丸「あそこにいる頼遠に、ひろってもらったんだ」 静「ええ………わたしのこどもだということは、すぐわかりました……… だから、どうしても………助けてあげたかった………」 北斗丸「どうしたの?気分が悪そうだよ」 静「北斗丸………わたしは、もうダメです……… 死んだ身でありながら、ムリに霊鏡を通って来たせいで………もう、力が出ないの………」 北斗丸「そ、そんな……おかあさん!」 静「北斗丸、がんばるのよ……… これから、あなたはとても、つらい思いをするでしょう…… でも、くじけないで………自分の信じたみちを、お行きなさい…………」 静「頼遠さん………北斗丸を、りっぱな男にそだててくれて、ありがとう…… みなさんも、がんばって………この世に平和を………」 北斗丸「おかあさ−−−ん!!」 頼遠「北斗丸………」 火鷹「行こうぜ、北斗丸。オレたちには、まだやることがある」 阿古耶「そうだよ!北斗丸、あんたがやらないで、だれがやるのさ。 メソメソすんなよ、男だろ!」 北斗丸「………ああ、わかってるさ。行こう!」 法輪「よぉ−し、出発じゃ!」 |