セリフ 21




阿古耶「やっと森をぬけたのはいいけど、つかれちゃった。
やすめるところないかなあ」
北斗丸「あ、あそこに村があるぞ。あそこで、やすませてもらおう」
北斗丸「こんなところに、村があるなんて……」
阿古耶「よかったじゃない。やすめるところがないか、聞いてみようよ」
頼遠「しかし………なんだか、へんな村だな」
火鷹「おくの方から、なにか聞こえるぜ」
法輪「本当じゃ。人の声ではないかのう」
声「北斗丸………北斗丸………」
頼遠「また、あの声だ」
声「よく、がんばりましたね………
ここまで来れば、出口まであと少しですよ………
さあ、行きなさい………ここで、お別れです…………」
北斗丸「待って……待ってください!」
阿古耶「北斗丸?」
北斗丸「オレ、ずっとかんがえてました。あなたは、だれなんだろうって。
おねがいです!すがたを見せてください」
声「………わかりました………」
北斗丸「あなたの声は、とてもなつかしい感じがしたんです………
あなたは、ひょっとして………」
静「ええ………わたしの名は、静。北斗丸、あなたの母です………」
北斗丸「や、やっぱり………おかあさん!」
阿古耶「あの声の人が、北斗丸のおかあさんだったなんて!」
法輪「だから、あれほどけんめいに、助けてくれていたんじゃなあ……」
北斗丸「どうして、はじめからおかあさんだって教えてくれなかったの?」
静「………名のる気はなかったの。わたしには、そんなしかくはないから………」
北斗丸「どうして!?」
静「義経さまが………あなたのおとうさんが、頼朝に殺されたのはわたしのせいでもあるからです」
北斗丸「ええっ?」
静「北斗丸、よく聞いて………わたしは人間ではありません。
義経さまは、わたしを妖怪と知りながら、わたしをあいしてくれたのです………
でも、そんなことを頼朝がゆるすはずがなかった………」


義経「静、よく聞いてくれ。オレは、これから旅に出る」
静「ええっ、どういうことなのですか?」
義経「兄上が、弁慶や、他のいい妖怪を切れといったのだ。
ことわったら、うらぎりものあつかいさ。
このままでは、いずれつかまってしまうだろう………」
静「義経さま………」
義経「かといって、オレには、いい妖怪を切るなんてできない。
とくに静、おまえのような妖怪を切るなんて、ぜったいにいやだ!……だから、オレはにげる」
静「わ、わたしもまいります」
義経「ダメだ。おまえのおなかには、今オレたちのこどもがいるんだぞ。
オレについて来るなんて、ムリだ!」
静「でも………」
義経「オレたちは、なるべく目立つようにして、兄上の目を引きつける。
だから、おまえが別の方ににげれば、つかまらないはずだ……わかったな。
おまえだけでもにげて、こどもを助けてくれ」
静「………はい」
義経「元気でな。こどもをたのむぞ」
静「義経さまぁ−−−!」



静「でも、わたしは、つかまってしまいました。
そして、あなたを生んだあと、びょうきになって死んでしまったのです………
頼朝は、あかんぼうのあなたを、はまべにすててしまったと聞きました」
北斗丸「あそこにいる頼遠に、ひろってもらったんだ」
静「ええ………わたしのこどもだということは、すぐわかりました………
だから、どうしても………助けてあげたかった………」
北斗丸「どうしたの?気分が悪そうだよ」
静「北斗丸………わたしは、もうダメです………
死んだ身でありながら、ムリに霊鏡を通って来たせいで………もう、力が出ないの………」
北斗丸「そ、そんな……おかあさん!」
静「北斗丸、がんばるのよ………
これから、あなたはとても、つらい思いをするでしょう……
でも、くじけないで………自分の信じたみちを、お行きなさい…………」
静「頼遠さん………北斗丸を、りっぱな男にそだててくれて、ありがとう……
みなさんも、がんばって………この世に平和を………」
北斗丸「おかあさ−−−ん!!」
頼遠「北斗丸………」
火鷹「行こうぜ、北斗丸。オレたちには、まだやることがある」
阿古耶「そうだよ!北斗丸、あんたがやらないで、だれがやるのさ。
メソメソすんなよ、男だろ!」
北斗丸「………ああ、わかってるさ。行こう!」
法輪「よぉ−し、出発じゃ!」